帝王切開を例に 2

保定 

立位

枠場保定の場合は、枠場に入れ尾を体の右側にまわして結ぶ。 (山本)牛が座り込む可能性がある時は、枠場に入れずに、ポールやロープで保定するほうが対応がしやすい。(山本)牛が座り込んだ時、左側が上になるようにするために(左けん部切開の時)、術前に右後肢の球節の上をロープで結んで、牛の左前肢のほうに伸ばしておく。もし、座り込みそうになったら、そのロープを農家に引いてもらい右後肢が下になるように座らせる。

(蓮沼浩)右後ろ足の球節の上部にロープを結び、そのロープを左前方に置いておく。長さは2mあれば十分。手術中に牛が座り始めたときに、農家さんもしくは助手に肢を左前方に引いてもらうことで、術創が下にならないように伏臥もしくは右横臥させるため。(阿部紀次)崩屈することを前提にし、腰にカウハンガー&胸に平打ち縄を装着し、梁ないしはトラクターなど重機に吊ります。

目隠し(目隠しをすることで、牛がおとなしくなる。)(山本)目隠しは、バスタオルか毛布(1/2にカット)がいいです。軽いと牛が頭を振った時に外れます。頭絡で挟み込めばずれません。

枠場を使わない時は、牛体の右側を壁際あるいは柵際に寄せ、牛の左側に長い(4~5m)のポールを牛床から高さ80cmの位置で固定し保定する。ポールを使わない場合、ロープでも代用ができる。切開の時に左後肢で蹴ろうとする場合は、左後肢の球節の上をロープで結び、後に軽く引っ張り蹴れないようにする。

(蓮沼浩)産道に子牛が乗っている場合は必ず子宮内に押し戻しておく。このことにより手術中に陣痛からの努責が起きることを予防する。腹圧が上がるとルーメンが出てくる可能性が高くなる。

横臥

診断途中で座り込みそうな時は、初めから横臥による手術にする。(蓮沼浩)産道に子牛が乗っている場合は必ず子宮内に押し戻しておく。このことにより手術中に陣痛からの努責が起きることを予防する。横臥で手術する場合は特に努責が起きやすいので注意する。左を上に、横臥させ前肢2本をロープで固定し、後肢2本をロープで固定し柱などに引っ張って暴れないようにする。頭の下に、ワラなどで枕をし(頭の擦過傷の予防)、目隠しをする。尾を結び、振らないように固定する。(汚染防止)

準備

(蓮沼浩)血管確保のために、動物用生食V注射液(ZENOAQ)2L、動物用留置針14GNZK)、トップ動物用補液セットTIS2-A03、トップ連結管を用いて留置。点滴速度は1分間で120滴。点滴には結晶ペニシリンG明治300万単位を混ぜておく。母牛が弱っている場合、過度に敏感な場合、術中に座りそうな気配がある場合はフォーベット50(インターベット)20mlも混ぜておく。

(蓮沼浩)血管確保が終了次第、子宮平滑筋弛緩剤、塩酸クレンブテロール(プラ二パート、共立)10mlを頚静脈から静注する。このときは点滴に混ぜないで留置針のところから直接投与する。最初に投与することで、子宮の収縮を抑制し、陣痛からの努責を抑える。これにより、手術中にルーメンが術創から脱出することを防ぐ。薬効は手術が終わるまで充分に効いている(1.5時間~2時間)。手術中にどうしても努責が強く、ルーメンが出てくる時は塩酸プロカインを5ml尾椎注射する。

縦切開の場合、左けん部の坐骨前縁から1215cm前方、腰椎横突起下縁から5cmを中心線に幅10cm長さ50cmを毛刈りする。(カミソリで毛ぞりしてもいい)。斜切開の場合は、坐骨前縁78cmを起点に最後肋骨より78cm後方に向かって斜めに毛刈りをする。

(清水大樹)外部からの触診で右角か左角の妊娠している胎子に近い方から切ります。切開は腰角から最後肋骨に向けての斜切開をします。過大子の場合など出しやすくなると思います。切開距離も大きくなるためです。角度も子宮に沿っています。

(山本)ドレープを使わない場合は、幅50cm×長さ60cmの範囲を毛刈りする(術野周囲からの汚染を予防するため広い範囲を毛刈りする) ブラシを使い石鹸で洗い、水で流す。

塩酸プロカイン40mlを切開予定創に沿って皮下に浸潤麻酔をする。

あるいは 腰椎分節硬膜外麻酔をする。麻酔が効くまで15分かかるので、保定後麻酔をする。

(清水大樹)硬膜外針を刺入する際に背弯姿勢を取らせないと針が椎間に入りずらいと思います。助手が居れば直腸検査で背弯姿勢を取らせることが可能ですが、背弯しづらい牛もいます。僕は左手で直腸検査手袋を消毒して膣に挿入して背弯させます。そこから右手で硬膜外針を挿入します。そうすれば一人でできます。教科書的には胸腰椎間に刺入ですが、第1,2腰椎間の方が刺入し易いと思います。そこが駄目なら胸腰間で実施します。注意点は背弯すると皮膚が動くので刺入点から目的の椎間に少しずれが生じる点を考慮する必要があります。(清水大樹)腰椎分節硬膜外麻酔術 ユーチューブ動画 https://www.youtube.com/watch?v=V87tpedkTJY

イソジンを噴霧する

毛刈りした部分の周囲(線状)と肩甲部(5cm四方)、十字部(5cm四方)、大腿部(5cm四方)、肋骨部(5cm四方)にドレープ接着用の接着剤を付ける

(山本)ドレープの付け方の動画(動画は第4胃切開時の右側腱部切開です)中央に幅5cm長さ20cmの穴を開けたドレープを固定する。切皮予定線までドレープの穴を延長する。(山本)ドレープを付けて窓をあけてもいい。

手術

(山本)助手が確保できれば助手がいたほうが作業性はよくなるし、手術の精度があがる。 坐骨前縁から1215cm前方、腰椎横突起下縁から810cmを起点に、垂直に皮膚を35cm切開する(

垂直切開の場合)1層目(外腹斜筋)の筋層を35cm切開する。出血がある場合は、鉗子で510分挟んでおくと止血する。2層目(内腹斜筋)の筋層も35cm縦に切開する。同じく止血する。3層目(腹横筋膜)は手で筋層を剥離して、腹膜まで到達する。皮膚を切開した後に、牛が座り込んだ場合、術者は、まず汚染しないように手で切開創を覆い、その後、タオル鉗子を5本使い、切開創に78cmごとに皮膚を挟んで、汚染を防ぐ。可能ならドレープの左右を折り曲げて切開創に被せると汚染を防ぐことが出来る。タオル鉗子をつけた後に、再度牛を立たせるか、横臥姿勢にして手術を進める。ドレープが汚染した時は、付け替える。

筋層から血が滲み出すときは、滅菌タオルを切開した筋層に被せて、吸血する。腹腔内に血液が入ると癒着の原因になるので、なるべく除去する。

第1胃を傷つけないように、腹膜を鉗子で摘み、メスあるいは鋏で腹膜を切開する。

横臥の時、第1胃のガスにより第1胃が切開創より飛び出すことがある。その時は套管針により第1胃に刺入し、ガスを抜く。抜いた後は特に縫合の必要はなし。

頭位の場合は、胎児の後肢を探し、飛節を確保し、両後足の蹄を切開創から出す。この時に助手は飛節を保持して創外に露出させる。胎児の足を切開創の外まで出せない時は、腹腔内で子宮を切開する。この場合、メスで子宮を5cmの切開をし、その後、鋏で35cm切開する。(ハサミで切開した方が、胎児や臓器を痛めることがないから)原則、子宮を切開創の外に出し、胎水が腹腔内に入らないようにする。もし、子宮内に助産の時に産道より菌が入っていると腹腔を汚染するから。

(清水大樹)子宮の切開の大きさは子牛の後肢の飛節から球節までの距離を基準に切開します。(清水大樹)子宮捻転などの場合は非常に弛緩しづらく腹部での切開になりがちです。腐敗胎子もそうですが、その際には滅菌したタオルを創口の下に入れて汚染された液体が腹腔内に入るのを防ぐ努力をしています。

メスで子宮を10cm切開し、その後、ハサミで35cm切開する。切開は35cmは大きめだが、子宮の切開が小さいと胎児が大きい場合に子宮が裂けることを予防できる。(堀北哲也) 5cmほどメスで子宮を切開した後そこに指を入れ手で子宮を裂くように用手切開する。利点:筋層に沿って子宮が裂けるので縫合・癒合が容易。切開長が短く胎子を引き出すときに子宮が裂けたとしても用手切開した方向に裂けるので直線的な切開創となり縫合が容易。(堀北哲也)子宮を腹壁の切開創外に引き出せず腹腔内で切開する時は、子宮基部で切開せずできるだけ子宮先端に近い部位で切開する。(焦って子宮を切開したら子宮基部に近い部位であり、胎子牽引後縫合する時に、みるみる収縮する子宮が腹腔内深くに戻ろうとするので、それを助手が把持し術者が縫合するのに苦労した。腹壁切開創外に子宮が引き出せないからといって焦ることなく、腹腔内の子宮の位置・状態をちゃんと確認すればよかった・・・)

(蓮沼浩)胎仔を娩出する前に点滴を全開にしておく。このことで、胎仔娩出後の急激な腹圧減少からの血圧低下を予防し、母牛が突然座り込むことを防ぐ。

蹄に被っている胎膜を切開して、胎児をかかえて引っ張り出す。

(山本)滑車を使わない場合でも、胎児の足に産科ロープを付け、農家に引っ張ってもらうと、出しやす。滑車を使う場合は、蹄に被っている胎膜を切開して、産科ロープを両後足の球節の上に付け、滑車と連結して引き出す。双子の確認。 胎盤は子宮切開創から飛び出して縫合がしにくい場合は、鋏で出た部分だけ切り取ればいい。子宮内の胎盤は剥がす必要はない。胎児の早期死亡などで胎盤がすぐに剥がれる時は、胎盤を取り出す。

(蓮沼浩)子牛の娩出が無事に終了し、母牛もしっかりしているようであれば点滴の速度を元に戻す。

(山本)立位の時、子宮を縫合するときに、トレイに滅菌ドレープを敷き、子宮をトレイに乗せ、農家にトレイを保持していてもらうと縫合しやすい。(的場亮平)子宮鉗子で子宮を保持すると縫合しやすい。

子宮の縫合は、ユトレヒト法を使い、縫合糸の結紮部が埋没するように縫合する。(子宮の癒着を防ぐため) ユトレヒト法とユトレヒトちょこっと変法 http://youtu.be/wF2bDQ1XPuA

子宮縫合の始点と終点は、3回糸を結んで解けないようにする。

子宮の縫合後、生理食塩液(13リットル)で血液を洗い落とす。(子宮の癒着を防ぐため)

横臥の時の縫合は、子宮を切開創から出し、ドレープ上に置くと縫合しやすい。 (山本)子宮の縫合時は、針を通す毎に糸を引っ張って緩まないようにする。縫合部に指が入る隙間があってはいけない。

子宮の漿膜が裂けた部分は、子宮が癒着するのを防止するために子宮の筋層が露出しないように漿膜を縫合する。縫合の後、縫合が緩んでいないか、子宮の漿膜が裂けていないか、血餅は付着していないかを確認する。特に子宮頸部まで、裏と表を確認する。

(的場亮平)子宮の切開創や胎仔の牽引で生じた裂創の始点が腹腔の深い位置にある時に、子宮鉗子を使うと切開部を腹壁外に挙上する操作が楽に行える。

癒着防止のために10%トラネキサム酸(日新製薬、止血剤)30mlを切開創に塗布する。

腹膜と3層目(腹横筋膜)の筋層を一緒に下から連続縫合する。半分ほど縫合したら抗生物質を溶かした生理食塩液1リットルを腹腔内に入れる。(中村康男)エンゲマイシン(10%OTC)、25mlをリンゲル500mlに混ぜ腹腔内投与し、20mlほどシリンジに残しておき縫合時に1層ごとに縫合部に掛けています。(島本正平)術時の抗生物質はプロカインペニシリンを利用しています。

2層目(内腹斜筋)、1層目(外腹斜筋)を縫合する。縫合するときは奥の筋層も引っ掛けて死腔ができないようにする。死腔ができると血液や漿液が溜まって、腫脹や汚染の原因になる。(清水大樹)切開創が大きいので止血を完璧にする(死腔に血液寒天培地ができる)創を閉じるごとに洗浄して死腔を作らないように2,3糸に一回は下の創も含めて縫合するなどの事をしています。手術をする上で当たりまえですが、死腔の形成にはかなり気を付けます。術野への抗生物質の塗布や、腹腔内注入の効果については東京農工大学の小久江先生が否定していたと思いますが、私の周りでは当たり前に実施されています。筋層にも抗生物質を振りかける。生理食塩液で5倍に希釈した抗生剤を20ml使う。(蓮沼浩)抗生剤は懸濁水性プロカインペニシリンG明治を全ての層に直接振りかける。各層10ml使う。

皮膚を縫合する

汚染防止用に外したドレープを幅5cm長さ40cmに切り、接着剤で切開創に貼り付ける。汚染防止用のカバーをしない場合は、毎日農家に消毒をしてもらう。使うのは、マイター(養日化学研究所、25100倍希釈)、や2%ポピドンヨード。乳牛の場合、搾乳用のディッピング液、ヨーチンは、皮膚への刺激が強いので連用しないこと。

(蓮沼浩)手術が終了したら、点滴を全開にして残りを流す。


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by agricoach | 2017-02-10 22:31 | 行動科学


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