帝王切開を例に 3

術後管理

術後は通常の分娩と同じく、母牛と子牛を管理する。切開創の下の方が汚染しやすいので、抜糸までの2週間、牛床は毎日掃除をする。

備考について

行動科学メーリングリストでは、メンバーの発言により内容を深めています。その発言を「備考」の欄にも記入しています。以下に記載します。

()内はメンバーの名前です。

@「ドレープを接着剤で止める」

(阿部紀次)「ドレープを接着剤で止める」ことに関しては小生の前任地トータルハードマネージメントサービスでのLDA整復手術(起立位右けん部切開)を田口清先生が目撃された時、「良い事やってるじゃん」と言われたことを思い出します。「一人で、野外での環境での開腹手術を如何に清潔に行うか」の目的意識からあみだされた手技でした。

目的

・麻酔がかかってない部位にタオル鉗子を装着すると牛が痛がる(人も危険/その際の動揺で術部や周囲が汚染、時にぶち壊わされる)。

・切開創および滅菌領域と、無滅菌領域との明確な遮断が出来る(いくらタオル鉗子で挟んでも、牛の動揺や風で無滅菌領域から滅菌領域に汚染が入り込む)。

・無窓ドレープを使用した際は、はっきりとした切皮線が分からなくなるので、ノリで描いた枠は、術野を確かめるのに有効となる(仮想切皮線の上下左右+5㎝の範囲を剃毛または毛刈り、消毒して術野とし、術野内と外のぎりぎり内側にノリを付けます)(ドレープに手術窓を開ける時は、ノリが付いていない内側をチョンと切り、その後ノリが付いていない部分を切ってゆきます。そうすることで、仮想切皮線の上下左右+3~4㎝の窓が出来ます)。

○牛のサイズや、術部の大きさ、角度、または周囲の状況は症例ごとに異なることから、無窓のドレープを用いて、後付けで窓を作ります(ただし、山本式のように120㎝大の大きなドレープを使えばそのような考慮はまず不要かもしれませんが/我々は90㎝大のドレープを使用しています・・・)。

○使用するノリですが、当初「和ノリ」とか、「木工用ボンド」を使いました。和ノリは着くまでの時間と接着力に問題がありました。木工用ボンドは良かったのですが、冬の道東では凍結・分離し、使えなくなりました。そこでG17を使うようになりました。凍結の心配がない九州では木工用ボンドが最適かと思います。と申しますに、G17だと渇きが良すぎて、いざという時に貼れない程乾いていることがあるからです。また、G17の場合、術後剥がす時に脱毛し、痛がる牛も居ます。まあノリの種類は好き好きでもあり、慣れや手際の問題でもありますが・・・。

(山本)貼り付け方式のドレイプにして衛生的に手術ができるようになりました。それ以前は、布製ドレイプをタオル鉗子で固定していたのですが、牛が動くと窓が切開創とずれてしまい、手術がしにくいし、汚染しやすくなっていました。貼り付け方式にして、窓がずれることもないし、快適に手術ができます。接着剤は、木工用ボンドよりG17が接着力がよく、こちらを使用しています。木工用ボンドでは、創口が動揺する手術(腸捻転、胃切開など)場合、ドレープがはがれやすいので、G17を使っています。私の場合は、120㎝角のドレープを使っています、中央に5×20㎝の穴を先に開けて滅菌しています。

@手術中の補液

(蓮沼浩) 薬剤の投薬ルートの確保、抗生物質の持続点滴、循環血流量の確保、血圧の確保などを主に期待して手術中に補液をセットしておきます。シェパードでは血管確保はほとんどの開腹手術で行っています。補液の種類は生理食塩水です。なぜ生理食塩水かといいますと、単純に循環血液量を増やすことだけを考えているからです。他にもっと良い補液もあると思いますが、生食で困った記憶は特にありません。なお、多くの子牛の開腹手術をしてきた鹿児島の君付先生と黒崎先生が子牛の手術では生理食塩水を使ったときが一番子牛の治癒率が高いと思うと話されていたことも関係しています。

(君付忠和)子牛の腸捻転手術の場合は特に要注意と思います。手術前の血液検査はルーチンにおこなっていますし、そのときカリウムが上がっていることが多いです。その場合、リンゲルやラクトリンゲルを使用した場合手術がうまくいっても術中や術後死亡したり、予後が悪かったりしていました。生食に変えてからは少ないように感じ、今は術中は血液検査が間に合わないときは必ず生食、カリウムが正常なときは生食かラクトリンゲルにしています。帝王切開のときは母体が衰弱し、横臥したときは補液していますが第一選択は生食、次にリンゲルでしょうか。立位は元気あるものとして(勝手に信じて。)補液してませんなぁ。でも術中の急激な変化に対して血管確保をしておくことは基本中の基本ですね。

@手術におけるフォーベットの使用について

(蓮沼浩)基本的に積極的には使用しません。あくまでも牛がイライラしている、神経過敏である、痛みに敏感である、何となく座りそうであると主観的に感じたときに使用します。手術を始める前にプラニパートの後に続けて投与します。フォーベットの術前投与は疼痛過敏緩和と術後疼痛緩和を期待して行います。使った感触といえば、いいような気がしますと非常にあやふやな答えとなります。アニマルウェルフェアの観点からはいいかもしれません。

@硬膜外麻酔について

(堀北哲也)キシラジン0.025mg/kg(セデラック2%液 0.75ml/600kg)+リドカイン0.1ml/kg(キシロカイン2%液 3ml/600kg)+生食1.25mlです。私は現場では硬膜外麻酔はやっていませんでしたが、大学に来てから硬膜外麻酔を実施した3頭のうち、ちゃんと入ったなと思った2頭は手術中に崩屈しました。学生実習での手術なので時間がかかったせいもありますが、牛の目がトローンとしていて、アチパメゾール(アンチセダン)の投与で目がしゃっきとし起立しました。その時の投与量は、キシラジン0.03mg/kg(セデラック2%液0.9ml/600kg)+リドカイン0.1ml/kg(キシロカイン2%液 3ml/600kg)+生食1.1ml でした。キシラジンが多すぎるのかな、リドカイン単独のほうが良いのかなと思い、ちばNOSAI連でよく硬膜外麻酔を実施していた平田昇先生に伺ったところ、下記のようなコメントを頂きました。下記コメント中の平田先生の推奨投与量は、キシラジン0.010.017mg/kg(セデラック2%液 0.30.5ml/600kg)+リドカイン0.1ml/kg(キシロカイン2%液3ml/600kg)+生食3mlです。

以下、平田昇先生コメント(ホルスタイン種四変手術)

「リドカイン5ml単独でも効果は出ますが効果にばらつきがありました。キシラジンを加えた方がキレが良いと感じています。田口先生から教わった量は600kgの牛でキシラジン1.5mL,リドカイン5mLでした。ただし、この量だと手術中にふらついたり、短時間で手術が終わった場合、術後枠から出てからすぐに寝てしまうこともありました。いろいろ試してたどり着いたのはキシラジン0.30.5mL(目見当),リドカイン3.0mL、生理食塩水3.0mLです。5ccのポンプに順にすってドロップ、注入をしていました。効果に多少のばらつきは出ますが寝込まない安全量として決めました。デブの牛には増やしていました。ばらつきとは、皮膚の鎮痛効果が劣ることです。深部に行くほど効果がでている感じがします。また、左右膁部の麻酔の偏りです。帯広大の研究でドロップ後、一分間、エアを吸わせてから注入することで偏りがなくなると。まねてやっておりました。よりましという感じでした。

麻酔が不十分なときは、リドカインを皮下に浸潤麻酔します。20ccの少量で通常の浸潤よりもよく効きます。現場的には面倒な硬膜外に皮下浸潤を追加するのはさらに面倒ですが、あの麻酔効果には代えられないですね。麻酔をかけてから膁部の毛をそり道具を準備する。10分くらいたつので効果が出ておりすぐに切ります。」

(清水大樹)硬膜外麻酔は素晴らしい方法なので更なる普及を願っています。

少し、僕らのやっている方法を紹介したいと思います。変位も帝王切開も開腹手術にはほぼすべて適応しています。

当社での施術実績は1500例ほどあると思います。

Youtubeの動画を見ましたが、硬膜外針を刺入する際に背弯姿勢を取らせないと針が椎間に入りずらいと思います。

助手が居れば直腸検査で背弯姿勢を取らせることが可能ですが、背弯しづらい牛もいます。僕は左手で直腸検査手袋を消毒して膣に挿入して背弯させます。

そこから右手で硬膜外針を挿入します。そうすれば一人でできます。教科書的には胸腰椎間に刺入ですが、第1,2腰椎間の方が刺入し易いと思います。

そこが駄目なら胸腰間で実施します。注意点は背弯すると皮膚が動くので刺入点から目的の椎間に少しずれが生じる点を考慮する必要があります。

この手技の問題点はこの刺入の難しさが全てだと思います。これが出来るようになれば、これほど素晴らしい麻酔はないので、局所麻酔では手術できなくなります。

参考までにYoutubeに手術中に餌を食べてる牛の様子を載せました。硬膜外麻酔では手術しながら牛が餌を食べる経験は良くあります。

腸間膜根捻転などの整復に激痛を伴う処置などでもこの麻酔がなければ施術困難です。つまり牛が寝てしまいます。

https://youtu.be/b_8DAtMdSjA

https://www.youtube.com/watch?v=__OuFC4kz-4

次に投与量の議論ですが、田口先生の2%キシラジン1.5mlは多すぎると思います。1mlを超えるような投与量は高率で寝てしまうと思います。僕は田口先生と数年一緒に手術していましたが、600kgの牛にそのような投与量を入れているのは見たことがありません。千葉の平田先生のお話にある0.3-0.5mlですが、僕らもこの量を採用しています。

僕は酪農大の小岩先生が10年以上前からキシラジン0.3mlのリドカイン体重100kg当たり1mlというのを実施しているのを見て参考にしました。田口先生のキシラジン投与量は小岩先生より多いですが、僕はその間を採用しています。

BCS3.25以下0.3ml、BCS3.25以上0.5mlです。リドカインは体重100kg当たり、1mlです。例えばBCS3.5,BW700kgの牛ではキシラジン0.5ml+リドカイン7mlとなります。この際に体重の推定誤差によるリドカインの増減はそれほど大きな影響はないと思います。キシラジンの影響力の方が大きいです。僕はさらに体重に加え、腱部の大きさを考慮に入れています。

つまり、刺入点から十字部までの距離です。この距離が長い牛は後方まで麻酔薬が届きません。標準より長いと感じたら、リドカインを1ml追加しています。

効果のバラツキについては、ハンギングドロップ後1分間陽圧解除するというのは、あまり効果がないと感じています。それよりもtouphy針(針先端の形状)ですから、液体の出る方向を意識しています。切開部位の方向に向けて針を刺入します。根拠は横臥位で硬膜外麻酔を実施した場合、片方しか麻酔が効きません。つまり寝ている下方に効くということです。この麻酔は神経管から出た神経スリーブの出口に効きますので、それを意識すればある程度効果部位を狙えると思います。

@巨大胎児や腐敗胎児

(清水大樹)腐敗胎子の場合は、まず手術するかどうか良く畜主と相談します。予後に不安があるためです。

基本的に巨大でも腐敗でも帝王切開のやり方は変わりません。教科書的には左ケンブ切開が推奨されていると思いますが、僕は外部からの触診で右角か左角の妊娠している胎子に近い方から切ります。切開は腰角から最後肋骨に向けての斜切開をします。過大子の場合など出しやすくなると思います。切開距離も大きくなるためです。角度も子宮に沿っています。

まず、帝王切開全般について共通ですが、子宮の切開距離が短くて割けるという問題があります。切開の大きさは子牛の後肢の飛節から球節までの

距離を基準に切開します。それと成功のためのポイントはプラニパートでどの程度の弛緩が得られるかという事だと思います。

子宮捻転などの場合は非常に弛緩しづらく腹部での切開になりがちです。腐敗胎子もそうですが、その際には滅菌したタオルを創口の下に入れて

汚染された液体が腹腔内に入るのを防ぐ努力をしています。

総括すると腐敗していても、過大子でも基本的に通常と変わりません。後は抗生物質の術前投与をするとか変位の手術では腹腔内に抗生物質を入れませんが

帝王切開の場合は水溶性の抗生物質を入れる、切開創が大きいので止血を完璧にする(死腔に血液寒天培地ができる)創を閉じるごとに洗浄して死腔を作らないように2,3糸に一回は下の創も含めて縫合するなどの事をしています。手術をする上で当たりまえですが、死腔の形成にはかなり気を付けます。人間ならばドレーンなどが有効なんでしょうが、牛の環境では難しいですから。

@子宮鉗子について

(的場亮平) 子宮鉗子(ウテルス鉗子)の使い方は通常のコッヘル鉗子(曲・無鉤)と同様なのですが、鉗子の先が幅広の硬質ゴムになっており、子宮壁に与えるダメージが少ないために長所としては

① 術野を狭めずに術者が縫合しやすいように子宮壁を挙上、反転するのに有効。

② 腹腔内での子宮切開になった時に、胎仔を牽引したあとすぐ切開端に子宮鉗子を装着し、装着した複数の子宮鉗子を交叉させ腹壁外方向に牽引することにより腹宮内への羊水等の漏出を防ぎやすい。

③ 子宮の切開創や胎仔の牽引で生じた裂創の始点が腹腔の深い位置にある時に切開部を腹壁外に挙上する操作が楽に行える。

短所としては、

① 先端が硬質ゴムでできているために、オートクレーブ滅菌できない(ゴムが変性してしまうので)こと。

② 通常の鉗子よりかなり価格が高いこと。

などでしょうか。

あれば便利な道具ですが帝王切開にマストな道具ではないので、オミットしてくださって結構です(笑)。

余談ですが、人医の産科領域でも帝王切開後の子宮縫合に関しては、1層縫合と2層縫合についてはそれぞれ諸説あるようで、どちらが良いか結論は出ていないそうです。最初に研修したところで習得した手技を行い、所属施設で術式の方針が決まっているところではそれに従う…みたいな話でした。

この辺は人医も獣医も同じみたいですね~。

@術中の座り込みについて

(阿部紀次)帝王切開と、第四胃捻転、腸捻転における起立位での開腹手術を行う時は、崩屈することを前提にし、腰にカウハンガー&胸に平打ち縄を装着し、

梁ないしはトラクターなど重機に吊ります。ただし、実際に崩屈するまでは緊張させない程度で。

経験上、母牛が疲れている帝王切開では子牛を摘出した後に「ふう~っと」力が抜けるように崩れます。

同じく消化管の強い痛みがあった症例では、それが整復されたのちに「ふう~っと」寝ることがあります。

この際使用するカウハンガーは、FHKの重たいやつは不適と考えます。その際は、カウハンガーも含めてドレープで覆います。

どれだけ準備していても、やはり寝た後の手術は「コタコタ」になってしまいがちです。

ただ、自立できずにカウハンガーに頼ってしまうと、若干閉腹の時筋層、皮膚がよじれることがあります。

@目隠しの意味について

(山本)動物に目隠しをするのは、広く行われています。動物園やアフリカの自然公園など、野生動物の処置をする際には基本的な手技です。ライオンなどの猛獣の処置をする時に麻酔銃などで麻酔をかけますが、麻酔がかかって座り込んだとき、まずやることは目隠しです。これは処置をする人間を守るためです。少し麻酔がかかった状態で人間が近寄ると、目が見えていると動物の体が動ける時は、人間に襲い掛かります。目が見えないと、動物は状況を判断できずにじっとしています。

家畜の処置をする場合も同じです。人間に慣れている場合はいいのですが、人間を怖がる牛は、人間を見ると暴れて逃げようとします。

その時に、牛も人間も怪我をすることがあります。それを避けるためには、暴れそうな牛には、前もって目隠しをして処置をするとおとなしくなります。

それを利用して捕獲するのが「楽々頭巾」です(愛知県 宮島吉範先生考案 https://youtu.be/vpNvq2hGtjg )。目隠しをして牛を動かないようにしてロープをかけて捕獲する、いい道具です。除角、削蹄、注射、耳標付けの時などに、目隠しは有効です。

動画  楽々頭巾を使ったバイコックスの投薬 https://youtu.be/I3F6846OnKE

以上が備考です。


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by agricoach | 2017-02-19 20:17 | 行動科学


メールはkagryt5297wexv@btvm.ne.jp まで。


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